2004年3月23日 【財務金融委員会】

武正委員 
質問をさせていただきます。まず、お手元の方に、理事会の御了解を得て資料を配らせていただきました。まず、日銀金融研究所の二〇〇〇年十二月の、バブル期の金融政策座談会ということで、日銀の翁さん、白川さん、白塚さん、「資産価格バブルと金融政策 一九八〇年代後半の日本の経験とその教訓」ということで、その中から抜粋したものをお手元に配らせていただきました。
 
三名の方は個人の資格で書かれているということでありますが、全体の話を簡単に、大きな四、五というところを抜粋しておりますので申しますと、バブル経済は三つの要因によって起きた、一が資産価格の急激な上昇、二、経済活動の過熱、三、マネー、信用の膨張。八七年以降九〇年にかけて四年間をバブル期と呼ぶ。その要因は、やはり、一つ、金融機関行動の積極化、二、長期にわたる金融緩和、三、税制、規制が地価上昇を加速、四、企業規制の崩壊、コーポレートガバナンスということでありますが。
 
そして、その後、八六年一月から、五・〇%の金利を、三月、四月、十一月、八七年二月、二・五%に引き下げ、八九年五月まで二・五%が維持をされた。その理由として、二年有余にわたる二・五%維持の理由として、一、政策協調、二、円高阻止、三、内需拡大ということであり、日銀第四回、第五回政策委員会議長談話でも金融緩和への警戒感は表明してきたんだということでございました。
 
八七年夏に短期金利引き上げもありましたが、十月のブラックマンデーによって引き続き金融緩和といった形になってしまったということでありまして、八八年夏、アメリカ、西ドイツが金利を引き上げたわけでありますが、日本の金利引き上げはおくれた。そのときに、やはり最大の意見の相違は、インフレ圧力の評価、あるいは米国株価やドル暴落をもたらすというような危惧、こういったことで、消費税導入後、八九年五月、やっと三・二五%へ引き上げ、そして八九年十月、十二月、九〇年三月、八月、六・〇%へ引き上げた。こういったことが書かれているわけでございます。
 
お手元の資料でも、大きなテーマで、五番で見てまいりますと、三百六ページ、七ページのところをお開きいただきますと、三百六ページの左上には、消費者物価が安定していたこと、あるいは、三百七ページの上から三行目、「マネーサプライの高い伸び率や信用の大幅な膨張に対し、比較的早くから懸念は表明していたが、これらは結果として十分に活用されなかった。」三百八ページ上から四行目、「資産価格の上昇は、金融政策運営上の「警戒信号」としては十分に活用されなかった。」三百九ページ上から四行目、「わが国にとって不幸であったのは、米国のドル安懸念と日本の円高不況への懸念とを背景に、国内においても、低金利維持を国際的な政策協調と同一視した議論がしばしば展開されたことであった。」ということで、その三百九ページの下から三行目にも、「円高阻止がいわば「国論」となる状況のもとで、金融政策によって為替相場水準をコントロールできるという発想に傾きがちであったことに基本的な問題があった。」そして、三百十ページ、一番下でございますが、「政策思想は、早期の利上げに対する有力な反対論として提起された。」。
 
三百十三ページの方にも同様の意見が書かれておりまして、総じて、やはり、金利の早期引き上げに対する政策的な、要は、政治面での圧力というものがあって、日銀の独立性というものがいかに必要なのかという結論で締めくくられている論文でございます。
 二〇〇〇年十二月の日銀の三名の方の論文はもう既に総裁もお読みになられていると思いますが、この論文の感想、あるいは今申し上げたような点についての御意見、いただけますでしょうか。

    〔委員長退席、山本(明)委員長代理着席〕

福井参考人  
今ちょうだいしました論文の筆者がきょう答弁席にもおるわけでございますけれども、私自身もこの論文を過去によく拝読いたしております。
 
私自身のバブル経済の認識でございますけれども、日本経済、戦後の成功物語を非常に見事な形で達成して、それが頂点に達したのはやはり一九八〇年代だというふうに思います。八〇年代、プラザ合意直前までの段階がやはりこの成功物語の頂点。高度成長、そして輸出主導型ということですから国際収支の大幅黒字達成、この二つの指標に象徴されているというふうに思いますが、したがいまして、プラザ合意を過ぎましても、この成功物語の余韻というのは非常に強く引きずっていて、日本の経済社会においては強気の成長期待というのがずっと蔓延していたというふうに思います。
 
しかし、実際には、その背後で、世界的に大きな潮流の変化が起こった。グローバル化の進展とかIT革命とかいうのがその大きな最たるものですし、本当は、国内的にも人口動態が急激に変わりつつあった、もう人口の増加率というのが急速に落ちていた時期でございます。こうしたことからいきますと、日本経済も、成功物語を終えた後はやはり大幅な構造転換の必要があった時期、最初にその時期に差しかかった時期だと思いますけれども、今申し上げましたように高度成長の余韻がなお色濃く尾を引いている中にあっては、構造問題への取り組みないしその進展はどうしてもおくれがちになった。

 したがって、強気の成長期待が蔓延する中で、貿易摩擦を解消する、あるいは黒字に対する対応をするということになりますと、どうしても強目の意識で、内需拡大政策に焦点が絞られるということに、当時、日本の経済社会挙げてそういう雰囲気にあったというふうに思います。つまり、構造改革以前の旧モデルのまま、強気の成長期待のまま問題解決しようとしたところにすき間があって、バブルが発生したというふうに私は理解をいたしております。

 具体的に、政策面からいきますと、消費者物価指数が比較的安定していたというふうな状況のもとでございましたので、政府の方も強気の景気対策、そして日本銀行におきましては緩和政策継続ということがとられまして、長期にわたる金融緩和措置というものが結果としてバブルの一因になったことは否めないというふうになっていると思います。
 
そういう意味では、やはり、構造転換に差しかかったときに、そのことを早く認知する社会的な能力、そして政策の全体的な物の考え方を再設計する能力というふうなものが、戦後五十年間、余りにも一つの枠組みのもとで成功物語を築いてきた結果、少し希薄になっていたということが非常に大きな問題であったのではないかというふうに考えております。

    〔山本(明)委員長代理退席、委員長着席〕

武正委員  
この論文で、先ほども触れたように、日銀の教訓ということが第六章にあるので、お手元にはないんですけれども、それをちょっと読ませていただきますと、「政策思想への働きかけ」というのがございます。「中央銀行の基本的な使命を損なうおそれのある政策思想はその時々の経済情勢によって変わってくるが、いったんそうした政策思想が広がると、金融政策もその影響から免れ難くなる。
中央銀行としては、常日頃から、そうした政策思想に対し、自らの考え方を明確に説明していくことが重要である。」あるいはまた、「制度設計の重要性」ということで、「日本銀行自身が主たる責任を有する制度の設計については、経済・金融環境の変化に合わせて自ら積極的に見直しを行っていくことが重要である。」こういうことを述べておられます。

要は、やはり、日本銀行みずからの中央銀行としての使命として、政策思想に対してみずからの考え方を明確に説明すべきである、こういったことを書いているわけなんですが、これについてはどのようにお考えになりますか。

福井参考人  
その点全く私も同感でございます。異議を差し挟む余地もないぐらい明快な見解だというふうに考えます。
 
委員御指摘のとおり、そのために、新しい日本銀行法では、日本銀行の政策決定プロセスにつきまして完全な自主性が与えられているということでございます。そして、政策決定のプロセスにつきましては、議論の経過をすべて公開するということになっているわけでございますので、そこで十分国民の皆様方からチェックを受けながらやっていくということでございます。
 
新しい考え方を、日本銀行としては、おっしゃいましたとおり政策思想という形で出していく責任があるというふうに考えています。

武正委員
 
完全な自主性というふうに言われましたが、やはり種々、日銀の自主性というか、本来は独立性ということで、新日銀法にも私は独立性という言葉がやはり書かれるべきであったというふうに思いますが、完全な自主性というのはやはり疑わしいと思います。国民に開かれた、そうした、情報開示というふうにおっしゃられましたが、先ほど島委員からも指摘もありましたし、また、例えば日銀支店長会議、年四回開かれておりますが、その議事録の概要は公表されますが、議事録は公表されていないといったことでは、やはりまだまだ日銀の情報開示は道半ばというふうに思うわけでございます。
 
今、日銀の自主性についてのお話がございましたが、既に総裁は、ペイオフ解禁は必ず来年実行するというような発言をされております。これは必ず実行するというか、すべきである、日銀としても、財務省とともに、あるいは金融庁とともに、ペイオフ実現、実行を必ず進めていくんだという御決意をお述べいただけますでしょうか。

福井参考人  
ペイオフ解禁を決断されるのは政府でございますので、私どもが決意するというのはおかしい話になりますが、私どもの立場からいえば、ペイオフ解禁は予定どおりぜひ実行していただきたいということでございます。

その理由は、民間経済部門におきましても、特に企業の部門におきましては、相当構造改革が進んで、これから新しい資源再配分機能というものを十分身につけながら付加価値創出の新しいプロセスに順次入ろう、こういう段階にあります。そうなりますと、金融面からそれを、十分、資源再配分機能を担っていくのは金融機関の役割でございます。
 
ここを、政府による預金の保護措置という形で、まず預金者が超安全志向、みずからリスク感覚というものをしばらくお蔵にしまっておいていい状況にし、金融機関自身も最終的には政府の保護措置の枠内にあるということでは、思い切ったリスク評価とリスクテークに乗り出していくということが用意されない状況になります。
 
そうなりますと、産業の面と金融の面とでミスマッチが起こったまま、本当に力強く日本経済が持続的な回復のパスに乗れるかといいますと、そこは大きな疑問符がつくということでございますので、どうしてもそこのところはペイオフ完全解禁に踏み切ってもらいたい。
 
ただし、それまでに、さらに政府も民間も必要な準備の努力をする必要がありますが、なかんずく民間金融機関は、ペイオフ解禁という最後のハードルは極力自分の力で乗り越えるというふうな努力をさらに強めてほしい、こういうことを重ねていつも強く申し上げている次第でございます。

武正委員  
過去、ペイオフの解禁が延期されてきた理由として挙げられているのが、地方政府、地方政府の関係機関あるいは各種基金が地銀に約二十兆円お金を預けている。いわゆる公金を扱っている金融機関、あるいは縁故債を中心となって受けている金融機関、それが地方で指定金融機関と。これは実は総務省マターなんですね、財務省、金融庁のくくりではない。これが、例えば埼玉りそな銀行で、地元自治体あるいは経済界から出資をしたい、こう言ってくる理由の一つにもなっているんですけれども。
 
この、今二十兆円のお金が地方自治体を中心に金融機関に預けられていること、それによって、ペイオフされると、これはその二十兆円が毀損をするおそれがあるという危惧からペイオフ解禁がおくれている、延期をされた。この状況は大きく変化していないのではないでしょうか。
 この点についてはいかがでしょうか。御認識を伺いたいと思います。

三谷参考人 
今の地方公共団体の公金の話でございますが、確かに、これまでペイオフ解禁延期といった議論の中の一つの問題として取り上げられたことはあると思います。
 
ただ、既に一昨年の四月にはペイオフの部分解禁というのが行われておりまして、そこでは、委員も御承知のとおり、定期性預金については全面保護ということではなくなってきている。そういったプロセスの中で、地方公共団体、確かに公金の預金の金額そのものはまだ相当ございますけれども、いろいろ運用面で工夫を凝らしておられる。また、一つの方法として、地方公共団体側の債務と預金との相殺といったようなことも可能な仕組みになっておりますので、そういうことも含めて、地方公共団体におかれていろいろな工夫をされておるというふうに承知しております。

したがって、残高そのものはまだ相当額あるわけですけれども、それがそのまま、かつてのように保護されないといいますか、場合によっては毀損してしまうというような形ばかりではなくなっているというふうに私どもは了解しております。

武正委員  
今理事の方から、地方自治体、工夫しているよというお話ありましたが、残念ながら、まだまだ意識が希薄であるというふうに言わざるを得ない。相変わらずの二十兆円というお金の地方金融機関への預け入れ、これはなかなか、やはり今までの人間関係で変えられないわけですね。それがやはりペイオフ延期論の実は大きな背景になっているという、私は、ここはやはり問題点を指摘せざるを得ないわけです。
 
また、二〇〇五年から地方債市場もある面自由化されるんですが、一部の自治体では先進的な取り組みが始まっておりますが、まだまだこれも意識の欠如というものが地方自治体でも指摘をされるわけですので、地方自治体は総務省だから、財務省、金融庁あるいは日銀、余り、まだまだといったところを、よくお話が財金でも出るんですが、ぜひ、日銀におかれましては、地方銀行と地方自治体との関係、それが、今の二十兆円の預金預け入れということでペイオフ延期の要因にならないよう、日銀考査も含めてお取り組みをお願いしたいと思います。
 
さて、日銀の独立性が必要なんだということは、先ほどの論文の点で総裁もお認めになったわけでございますが、先ほど完全な自主性というお話ありましたが、いろいろやはり指摘がされております。
 
まずは、予算が財務省にある面拘束をされる、日銀予算、独立性がない。あるいは、政策委員会に政府側からの同席、そして毎回のように発言があること。そしてまた、国会報告をなぜ財務大臣を経由して行うのか、日銀の完全な自主性であれば直接国会に出すべきではないか。
あるいは、日銀総裁、副総裁の任期、これが五年というのは短過ぎるのではないか。そして、先ほど触れたように、自主性ではなくて独立性という言葉等々、まだまだ日銀の自主性、独立性を、先ほど完全なというふうにお答えになりましたが、するためにはさまざま課題があるというふうに私は認識しております。
 
その中で、これはもう財務金融委員会、当委員会で再三取り上げられております、FB、政府短期証券でございますが、この政府短期証券が、当初、利率が決まっていたものが、九九年から公募入札になったわけなんですが、これが借りかえ借りかえで、要は長期国債と同じようなことになっている。
これは、既に財金で我が党の小泉委員が、財政法の脱法行為ではないかという指摘をしているんですけれども、この点について、総裁、御認識いかがでしょうか。財政法の脱法行為に当たる、この政府短期証券の、入札を経ても、やはり受け入れるというのは問題がありという指摘でございますが、いかがでしょうか。

福井参考人  
ただいま委員御指摘のとおり、FBにつきましては、一九九九年の四月以降、原則として市中公募入札方式による発行というふうに発行方式の切りかえが行われました。その結果といたしまして、マーケットの中で、FBの信用力、流動性の高さということが正確に評価されるようになって、短期金融市場の中核的な商品、たちまちそういう中核的な商品として成長し、定着するに至っております。

日本銀行は、そうした市場の状況を見ながら、市場の中からFBの買い入れということを行っておりまして、現在では、このFBの買い入れというのは、手形の買い入れあるいは国債の売り戻し条件つき買い入れなどと並ぶ、短期のオペレーションの主要な手段の一つとして位置づけることができるようになっております。
 
その時々の金融情勢を踏まえながら、金融調節上の必要に応じて活用している。政府に対する財政資金のファイナンスという意識ではなくて、金融調節上の必要に応じて活用しているということでございます。

残高がふえておりますが、これは市中に対する流動性の供給枠を非常に今大きくしております関係で、結果として残高も累積しているということでございまして、おっしゃるような財政に対するファイナンスのルートということではございません。脱法行為になっているというふうには受けとめておりません。

武正委員  
脱法行為ではないと言わざるを得ないと思うんですが、ただ、これがもう借りかえ借りかえで固定化しているということに対して、問題意識はいかがでございましょうか。長期国債と同じことという指摘に対しては。

福井参考人 
市中に流動性をたくさん供給いたします場合に、どうしても、短期の市場の中で流通している、信用度が高く、最も流動性の高い資産を中心に日本銀行がオペレーションをする、これは金融調節の将来にわたる弾力性、機動性を確保するために絶対条件、絶対に必要な条件でありまして、その条件を満たすために、現在のように、量的、つまり流動性の供給枠を大きくしている状況のもとでは必然的にその残高が大きくなるということでございます。
 
将来、もし本当にエグジット以降、流動性供給枠を非常に小さくして済むという状況にソフトランディングしていくとすれば、そのプロセスにおいてこの残高も当然減っていくだろうというふうに思っています。

武正委員
  
そういう意味では、ことしの二月の数字でありますが、短期国債、TBと、FB合わせて二十七兆というのを、FBを、今八兆あるようでありますが、二〇〇四年の二月の段階で。これをTBにかえた場合、金利負担は幾ら増すんでしょうか。

白川参考人  
短期国債とそれから政府短期証券、発行の根拠法規は違いますけれども、市場におきましては両者は同じような商品として扱われております。したがいまして、短期の国債、TBをFBにかえることそれ自体によって追加的に金利負担が上がるということではないというふうに思います。

武正委員
  
そういう意味では、やはり短期国債での引き受けという形で、先ほど徐々に減らしていくんだという総裁の発言がありましたが、そうした形にしても、今の状況では金利負担はない、根拠法が違うだけだということでございます。そうしたことが、私は、説明責任という点からもわかりやすいのではないかというふうに思うわけでございます。
 
さて、次に話を移してまいりますが、既に三月、スノー長官やグリーンスパン発言、円高阻止のためのドル買い介入、これはもうある面効果がないよというか、あるいはやり過ぎではないか、こういった発言があったわけでございますが、この発言について総裁はどのようにとらえておられますでしょうか。

福井参考人 
為替相場の動きにつきましては、もう日本銀行としては一貫した物の考え方、これは、為替レートは経済のファンダメンタルズを反映した形で安定的に推移することが望ましい、これが一貫した考え方でございます。
 
政府において行われております為替市場への介入操作につきましても、基本的にこの思想にのっとって行っておられるというふうに理解しておりますし、このこと自身は、私どもが現在進めております金融緩和政策の方向性と矛盾するものではないというふうに理解しております。
 
そうした日本の金融政策全般の進め方につきましては、グリーンスパン議長に、しばしば私はお目にかかりますが、丁寧に御説明しておりまして、十分理解は行き届いているというふうに考えております。
 
議長の三月二日の御発言、ただいま委員御指摘のとおり、これは、先行き我が国のデフレが克服されるような状況のもとでは、現在のような為替介入は金融政策上の必要性と整合的でなくなるだろうというふうな趣旨の御発言でございます。これは、将来我が国のデフレが克服されるような状況のもとになればごく当然の見解だというふうに思われることを述べておられる、そういうふうに私どもは理解しているわけでございます。

武正委員
  
二〇〇一年三月の当座預金の枠が五兆円、それが、三十五兆から三十七兆に、この三年間で三十兆円も枠を広げてまいりました。一方、マネーサプライは一向に増加しない。やはり半端な理由じゃないんじゃないかな、なぜ信用創造や乗数効果が出てこないのだろう、これがいろいろと言われるわけなんです。
 
これは、私はちょっと単純に考えたわけなんですけれども、当座預金の枠を広げても、結局そのお金はドル買いに回っているだけではないのかというふうに考えるんですが、この指摘について、総裁、いかがお考えでしょうか。

福井参考人  
金融緩和を進めてもマネーサプライが伸びにくい環境になっているという点は、今、先進国ほぼ共通の現象として起こっております。アメリカにおきましても、最近景気回復はかなり力強くなっております、そして、連銀は、現在の緩和政策を我慢強く続ける、こういうスタンスのもとで運営されておりますが、マネーサプライの伸び率が下がっているという顕著な現象がございます。
 
これは日本も同様でございますけれども、国際的な企業間競争が非常に厳しくなって、企業は、前向きの行動をするけれども、同時に、引き続き、リストラと申しますかダウンサイジングと申しますか、身を引き締めながら、そして前向きの行動もする、こういうふうに企業の行動パターンが変わって、したがって、過去に借りた余計な借金は極力返しながらという行動をいつも伴っているという現象だというふうに理解されているわけです。
 
日本の場合には、過去の借り入れが非常に大き過ぎた。その反省の上に立って、米国の企業以上にダウンサイジングの努力を今企業がしている。現にその効果が上がりつつあるがゆえに、企業は次第に前向きの行動がとれるようになってきていて、現在の緩やかな景気回復につながっているということでございますので、このプロセス全体を動態的とらえますと、金融緩和を思い切ってやっても、しばらくはむしろマネーサプライの伸び率は上がらない、しかし、いずれマネーサプライの上昇に結びつく、ここに時間的リードタイムがあるというふうに理解すべきではないかというふうに思います。
 
現在私どもが供給しております流動性そのものは、直接目の前でマネーサプライをふやす効果はないけれども、そうした、企業が安い金利コストでリストラあるいは将来への備えを進めていくという条件を十分提供しているわけでございまして、まだ表に効果が目に見える形では出ないにしても、その地盤を整備する効果は十分発揮しつつあるというふうに理解しております。

武正委員  
私の聞いたのは、日銀当預が三十兆枠をふやしたけれども、そのお金が結局はドル買いに回っているんじゃないですかということなので、そのことについてお答えください。

福井参考人 
円は循環するものでございまして、政府が介入のためにマーケットから円資金を調達してドルを買う、ドルを買えば円は市場にまた放出されるということでありますので、お金は回っていく。円という残高が消えるわけではございません。

武正委員  
今、日本は双子の黒字と言われておりまして、経常収支の黒字と、それから資本収支の黒字。その資本収支の黒字は何かというと、要は、各銀行がドルを借り入れて、その他の投資として、円売り・ドル買い介入の注文を受けた銀行が、政府、日銀にドルを渡すため海外からドル資金を借り入れる、これがその他の投資の流入超となって、それが二十二兆ということで、今資本収支の黒字につながっている。要は、ここに、私はだから、日本の銀行がドルを借り入れるために、そのお金に結局は行っちゃっているんじゃないかというふうに思うんですが、いかがでしょうか。

福井参考人  
お金はいろいろな形で回ると思います。委員御指摘の点だけではなくて、やはり日本の株を購入するための資金にも回っている。企業は、目に立ちませんけれども、リストラをするためには相当なコストがかかるわけでございます。そのためのお金も、回りながら使われているということは確かでございます。

武正委員  
ちょっと総裁からは、残念ながらそうした認識について共有できるお答えがなかったわけでございます。
 
次に移らせていただきますと、三十兆円の介入をして、外為特会、平成十六年度末、これは外貨証券百三兆、外貨預け金二十七兆というのが今年度特会の予算として提出をされておりますが、百三兆のうち財務省証券が幾らかということで、六十兆、七十兆というような話もあるわけではあります。
 
為替介入等について、外為特会は、これは政府のことだと、あえて日銀から申せばというお話をされますが、政府から依頼を受けて、そして各銀行にドル買いを指示する、やはりこれは日銀がやっておられるわけで、各中央銀行とのさまざまな連絡協調、こういったことも日銀はやっておられる。ですから、この外為特会の米財務省証券の差損、ドル安による差損、あるいは暴落の差損の危険性というものを、これは政府の特会だからといって日銀が看過できないと思うわけでございますが、その危険性が今十分あるというふうに考えますが、総裁としてどのようにお考えになりますか。

白川参考人  
議員御質問の、為替介入あるいは外国為替資金特別会計におきます資産運用等の広い意味での為替政策でございますけれども、これは、今議員おっしゃったとおり、政府、財務省の所管でございまして、日本銀行の立場から具体的にコメントするということは差し控えさせていただきたいというふうに思います。

武正委員  
お手元の方に、ホームページからの資料、ホチキスどめのものを配らせていただいております。先ほど島委員も取り上げた、いわゆるスワップという点でございます。
 
昨年十二月二十六日、ことし三月までだ、どうしても介入資金がないからしようがないんだよというお話でございましたが、二ページ目をめくっていただきますと、「買入対象債券 米国財務省証書とする。」。十兆円今買われたこの米国財務省証書、これを担保にお金を特会に貸したというか交換をして、そしてこれが介入資金に十兆円回っているわけですね。今、関係ないよというお話ですが、関係あるじゃないですか。財務省証書に何でこれは限定するわけですか。お答えください。

白川参考人  
政府の外為会計において保有しています資産、これは大宗が米国の財務省証券でございます。その財務省証券を売って円資金を調達するという場合の条件でございますけれども、今議員が配られました資料に、「買入価格」と並んでその下に「売戻価格」というのがございまして、これは実は買い入れの段階で売り戻しの値段も同時にセットしております。
 
したがって、日本銀行サイドから見ますと、これは、為替のリスクは負担をしないという形で、その間、ちょうどFBの金利に見合うような形で実は価格を設定するという形で、日本銀行自身もこうした資産運用の健全性をちゃんと確認した上で買い入れを行っているということでございます。また、そうした条件をこういう形で明示をしているということでございます。

武正委員
  
そうすると、平成十六年度末の特会の外貨証券百三兆円は、丸々米財務省証券というふうに思っていいわけですか。

白川参考人 
 
日本銀行が政府から買っておりますのは、これは米国の財務省証券でございます。

武正委員  私が言っているのは、特会のこの百三兆円の外貨証券は丸々米財務省証券と考えていいんですかと。

白川参考人 
 特別会計の保有しています資産の中身につきましては、これは政府自身が毎月一回公表しておりまして、その中で内訳を公表しております。今ちょっと手元に数字ございませんけれども、財務省証券とそれから預け金というものが中心でございます。

武正委員  
預け金じゃなくて外貨証券は百三兆円なんですよ。ですから、これは丸々米財務省証券と考えていいんですか。

白川参考人 
外為会計の保有しています外貨債券の通貨別構成は、これは政府の方からは公表はされておりません。対外非公表の扱いでございます。

武正委員 
だから、それはわからないのに、さっき言ったのは、ほとんど財務省証券だからそこから十兆円財務省証券を買うんだと。ほかにもいろいろほかの国の証券があるんだったら、このときの約束で米国財務省証券ほかとかなどとか書くべきじゃないですか。なぜ、ほかにも債券があるんだったら、米財務省証券に限定するんですか。お答えください。

白川参考人 
政府サイドの方から、持っています米国の財務省証券を売る形で円資金を調達したいという御要望がございまして、日本銀行の方として、その申し入れにつきまして、日本銀行の政策目的上これは是か非かということを検討して、その上で、先ほど申し上げたような条件のもとで買い入れに応じることが適切であるというふうに判断したということでございます。

武正委員  
総裁、どうなんですか。先ほど、バブル期の金融政策のお話でも、やはり中央銀行として、毅然たる、そうした態度で政府の政策に対して物を申していかなきゃいけない、これがバブルのときのやはり教訓であると翁さん以下三名の方が書いてあって、そのとおりであるというふうに先ほど申されたわけなんですね。
 
今の、この外為特会が、百三兆のうちどの程度米財務省証券かはわからないという話でしたが、ほとんどそうだから、十兆円預け入れましょう、これを外為で使ってくださいと。日銀がそういうことをしていたら、どんどん外為特会の差損が、あるいは暴落によるリスクが大きくなっていく。こういったことを中央銀行として看過していいんですか。バブルのときの弊害としてこういった論文を書いておいて、それでよろしいんでしょうか。総裁、お答えください。

福井参考人 
今回の外為会計との間の外貨資産の売買につきましては、国の政策上必要だという明確な判断のもとにやっております。国に対する安易な融資として行っているものではございません。しかも、それをやるということは、日銀の政策委員会できちんとした議論を経て行っております。米国の財務省証券を買うということは、日本銀行も外貨を一部持っておりますが、日本銀行のポートフォリオ形成上も何ら問題はない、こういう理解のもとでございまして、日本銀行の独立性に絡む議論については、今回の措置に関しましてはほとんど問題のないケースだというふうに考えております。

武正委員  
最後に、先ほどちょっと触れました、支店長会議の話をさせていただきます。
ことし一月、全国十一支店金融経済概況というものを発表されているんですが、北海道地区を除いて、全体的に、相変わらず、緩やかな回復というのが、各支店からのこの概況を見るとやはり載っているんですね。ただ、さっき言ったように、本当に地方経済が順調なのか、本当に回復しているのか、本当にそうした声が各支店長から――二回に一回発言するそうですね、支店長会議では支店長は。

本当にその声が上がっているのか。やはり、連結ベースで大手企業が海外でもうけた金が日本の企業の業績回復につながっていると見るのが大方の見方であって、地方経済は相変わらず厳しい、これがもう全国の至るところの、特に中小企業経営者を中心とした声なんですね。その声が支店長会議で上がっていないはずないんです。
 
ですから、支店長会議の議事録は、こんな概況とか要旨とかじゃなくて、これは先ほど総裁言ったように、完全な自主、そして説明責任果たしています、情報公開していますというふうにお答えになられたので、私はやはり、この支店長会議、大変大事な地方経済の声だというふうに思いますので、この議事録は公開をすべきだというふうにお願いをしたいと思いますが、いかがでしょうか。

福井参考人 
支店長会議は意思決定の場ではございません。したがって、議事録という性格のものはございません。ただし、支店長の報告につきましては、記者会見もいたしておりますし、お手元に届いておるような資料で公開いたしております。
 私どもの政策判断の過程におきましては、地方の情報は十分生かしている、したがって、我々は引き続き緩和政策を強固に守っていく、この判断に結びついているわけでございます。

武正委員  
その緩和政策が、結局はドル買いにお金が回っているということを指摘させていただいて、私の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

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