2004年4月22日 【憲法調査会最高法規としての憲法のあり方に関する調査小委員会】

武正小委員 
 民主党の武正公一でございます。
 齊藤参考人にまずお伺いをしたいのが、条約は国内法に優先するという学説についてでありますが、今、政府もこういった考え方に立っているように見受けられております。ただ、いろいろこれは、留意する点あるいは条件があるのではないかというふうに考えております。
 
というのも、今、日本国政府が未批准の条約が二百六十以上あり、そして、署名しながら未批准の条約が、昨年十一月末現在、十二あるということでございまして、先ほど来触れられております国際人権規約、B規約の第一選択議定書もその未批准の条約の一つでもあります。人権関連の条約が未批准ではないかという指摘を我が党もしておりますところでありますが、この二百六十以上の内訳を見ますと、特に八十三条約がILO条約関係といったことも非常に際立った特徴かなというふうに思っております。
 
そういった意味では、すなわち、政府が国内法整備をしたくない条約は未批准のまま放置しているのではないかという疑い、あるいは、条約が未批准だから国内法は未整備でいいという言いわけにされる可能性がある。
 これについて、まず参考人の御意見を伺いたいと思います。

■齊藤参考人 
国際条約が法律に優位するということの第一の意味合いといたしましては、御指摘のように、法律の整備のためのインセンティブになるということがございまして、法律の整備が十分ではなかったりした場合、あるいは漏れがあった場合に、裁判所でそれが国内実施の問題となるというような手順かというふうに存じます。その意味では、条約の締結といったことが法律の整備にもたらす意味というのは非常に大きいというふうに考えられます。
 
ただ、その際に、法律との整合性の問題で条約の締結をちゅうちょする。これは、法律といいますよりも憲法との関係で、例えば人種差別撤廃条約の批准が非常に遅かったというのは、憲法の表現の自由との関係であるということがしばしば指摘されていますし、そういったことはあろうかと思います。
 具体的に個々の、御指摘のような例えばILO関係の条約との関係で、国内の法律整備の進捗状況に合わせて条約の批准をおくらせたり考えたりしているのかどうかということについては、私もその点はよく存じません。

武正小委員 
私の考えとすれば、やはり条約が国内法に優先する条件として、あるいは留保として、政府が条約の批准、未批准を、こういった言い方がいいのかどうかわかりませんが、恣意的に利用することがないようにというのが、条約が国内法に優先する前提条件というふうに私は考えております。これについては、参考人、今、御意見はちょっと難しいというお答えだったというふうに思います。
 
ちょうど今国会でも、外務委員会でサイバー条約という条約の審議がありまして、これは衆議院を可決して参議院に送られておりますが、これも、これまでサイバー条約はわずか四カ国しか批准をしていない、日本が批准をすると五カ国になって、やっと発効するという代物でございまして、なぜここまで急がなければならないのかといったことが、やはり委員会でも議論になりました。また、今国会でも、電波法改正や有線電気通信法の改正など関連法案の諸整備が、一挙にそれぞれの委員会で同時並行で行われております。
 
そういった中で、条約の中で、条約は署名をしてきて国会にそれを付議をするわけですが、何を留保するか、何を留保しないかというのは政府の方に決定権がある。だから、審議の中で、じゃ、これを留保しましょう、留保しませんというのは言いませんというようなことで、審議に供せられております。
 
これが果たして本当に、条約は国内法に優先するというか、あるいは、条約締結は政府の専権事項である、国会は事前事後の承認ということでありますが、その留保、未留保、こういったことも政府のみに決定権があるんだ。これは、参考人として、こういったことをもう御存じなのかどうか。あるいは、これについて、私は、国会の審議ということに関して言うと、条約の承認に関して、国民を代表した国会の意を条約の、特に留保条件、何を留保するかしないかについてはなかなか影響が与えられない、こういったところが条約の問題点としてあると思うんですが、これについてどのように考えるか、お伺いします。

■齊藤参考人 
ただいまの、条約の承認の際に留保を国会で新たにつける、あるいは政府の原案にある留保を削るといったようなことが可能かということでございますけれども、従来は確かに御指摘のように、政府見解としては、国会が留保を付したり、留保を外したり、あるいは修正をつけ加えることはできないという立場をとっておりましたが、これは、国会の立法府としての権限を考えますと、必ずしも正しくないというふうに考えられます。
 
かつての二国間条約のように、政府が相手国と交渉してきまして条文を詰めてきて、それで国会に承認を諮っているという場合は、国会で留保を新たにふやしましたり修正をいたしましたりしますと、相手国とまた一から交渉をし直すということになってしまいますので、こういった場合に留保や修正ができないということは一つ理由があり得ますけれども、例えば、既に国際会議等で文書がつくられている多国間条約の場合、これは、日本国が留保をつけるとかなんとかということによって条約の本文自体が変更されるということではありませんので、実際にその留保を付すことによって、まさに国内で法律に優位する効力を持って適用される規範の範囲、あるいは適用される規範の内容といったものが変化を来たすわけで、実質的には立法にかかわる問題かと考えられます。
 
こういったことについて、つまり、御指摘のような、留保をふやす、あるいは、政府が留保しようと提案しているところについて、留保せずに国内法の整備を図るべきではないかというふうに提案するというようなことは、国会の権限の範囲内として考えられるというふうに思います。

武正小委員 
これはまた国会の審議のあり方にもかかわってくるんですが、実は、条約というのは非常に複雑多岐な分野にわたっておりまして、今、国会では、衆議院の場合は外務委員会でその審議を行うんですけれども、関連する委員会が非常に多岐に及ぶ。ただ、外務委員会だけで審議をしておりますので、それも、条約が三つ四つ五つ、同時に審議をするようなやり方をとっておりまして、実際にこのやり方がどうなのかといったことも議論があるところでございます。
 
そういった意味では、条約について、例えば連合審査が必要であるとか、やはり条約は一つ一つ丁寧にやるべきだ、そういった意味での、国会の立法府としての条約審議のあり方、これについてはまだまだ工夫が必要ではないかというふうに言われておるんですが、参考人、このことについて何か御意見がありますか。

■齊藤参考人 今の国会の御審議の実際につきましては、これは私が申し述べるのも何か釈迦に説法なことになりますけれども、御指摘のように、仮に条約の審議といったものが、複数のものを一括して行うですとか、実際に内容について逐条審査を余り精密に行わないという形でなされるといたしますと、それによって承認された条約が、国内ではその後、法律よりも優位する効力を持って、しかも、国会が後から法律をつくってもそれに打ちかつ力を持ってしまうわけですから、先ほどレジュメで言いましたような逆転現象が強くなってしまうという問題がございますので、国会での審議というものは、具体的にどのような方策があるのかというのは私もよくわかりませんけれども、御指摘のような点は十分考慮していただく必要があろうかと存じます。

武正小委員 
今度は条約と憲法との関係ですが、戦後、いわゆる条約優位説、そして、東西冷戦の進行、サンフランシスコ平和条約、日米安保条約を軸とする西側陣営入りで憲法優位説、これは憲法調査会事務局作成基礎的資料十五ページに書かれていることであります。
 
今回、イラク開戦に当たって、首相が、日米同盟、国際協調の両立と申しました。そして、ある面、国連は助けてくれますか、アメリカは助けてくれるんですというような言い方をしておりましたところ、今回、アメリカ大統領の発言もあり、やはり国連中心だということで、首相の発言も、やはり国連中心だ、米英占領当局、CPAではなかなか難しかろうというような形で、ある面、政治的リーダーシップがぶれるということが見受けられております。
 
すなわち、これはやはり、日米同盟の根拠となる日米安全保障条約、二国間の条約と多国間の条約、あるいは日米同盟と国際協調といったことでの、どちらが優位なのか、こういったことが問われているのが今イラクをめぐる現状だと思いますが、この点についてのお考えをお聞かせください。

■齊藤参考人 
今の御質問は、日米同盟と国際連合とどちらを優先的に考えるかというような御趣旨でよろしかったでしょうか。

武正小委員 
国際協調でございます。

■齊藤参考人 
もしかすると、御質問の御趣旨から多少離れるかもしれませんけれども、国際協調あるいは国際協調主義という言葉が一般にも用いられていると思いますし、日本国憲法の、例えば前文ですとか第九十八条第二項の説明としても、国際協調主義あるいは国際協和主義といったものが憲法学の基本的な文献などでもしばしば使われるのでございますけれども、ただ、日本国憲法自身は、国際協調という言葉はその文字どおりには用いておりませんし、憲法第九十八条も、条約を遵守するということを言っているわけであって、どのような国際活動を行うかといったことを国際協調主義といったようなタイトルで掲げているわけではございません。
 
国際協調主義という言葉が憲法学説上出てくるのは、当初の条約優位説が言っていた国際主義といったものが余りにも漠然としているということで、これを明確化するというような趣旨で言われていた部分もあるのかなと思いますけれども、ただ、その内容が多少漠然としていて、憲法九十八条が定めている国際法規あるいは条約を遵守するということよりは多少不明確な部分を含んでしまう部分があるのではないかというふうに考えております。
 
もちろん、そういう憲法学上の問題とは別に、日本国の政策としてどのような形で国際社会に協調、協力していくかということは、これは政策の問題でございまして、憲法解釈の問題とはまたちょっと趣を異にするかなというふうに考えております。

武正小委員 
ありがとうございました。

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