2004年5月13日 【憲法調査会公聴会】

武正委員 
民主党の武正公一でございます。
本日は、三名の公述人の皆様、それぞれお考えをお述べいただきまして、こうしたやりとりをさせて いただくことになりましたが、心から感謝を申し上げる次第でございます。
私が今回、お三方のお話を聞いての私自身の感想というか、考え方を三点、まず冒頭述べさせてい ただきたいと思います。
 
私の問題意識として、まずは、日本が今、安全保障について日米安保が基軸であることは変わらな いというふうに思っております。ただ、日米安保における極東条項などを含めて、今、国会において 議論がされている、日本とアメリカ、自衛隊と米軍との役務、物資の相互の提供、ACSAと申します が、その改定などを含めると、これから世界じゅうに米軍と自衛隊が行動をともにしていくかどうかの ちょうど今瀬戸際にあるのかな、私はやはり、極東条項にもあるように、そこまでいくのはやり過ぎ  ではないか、そういう問題意識を持っておるんです。ひいて言うと、米国と日本との、もちろん自衛隊 と米軍も含まれますが、米国と日本との距離感というものが昨日の公聴会でも公述人から御意見  があった点だというふうに思いますが、これがまず第一点でございます。距離感という点でございま す。
 
第二点目は、やはり権力というものは分散すべきであり、三権分立、そういった意味で今司法改革 が進められ、先ほども同僚委員からお話があったように、地方分権、道州制、そういった意味ではシ ビリアンコントロール、特にその中における国会の関与について、二点目、私の問題意識がござい  ます。
 
三点目は、日本を取り巻く状況、その中でやはり危機管理といったところでございます。どうしても縦 割り省庁の壁というものを感じるところにあっての首相あるいは内閣官房への権限の強化、一方、  責任の明確化、そして、そのバランスと言ってはなんですけれども、やはり政府、首相、内閣の説明 責任、当然そこには、国民の知る権利、こういったものが出てくるというふうに思っております。自分 自身、こういった三つの問題意識を持って、お三方の公述を聞かせていただきました。
まず、吉田公述人にお伺いをしたいんですが、私も、今の憲法は、今申し上げました国民の知る権 利、プライバシー権、環境権、国際貢献あるいは私学教育、そしてまた、地方自治については四条 しか触れられていない点での地方分権、主権等々、戦後六十年たって改正の必要性、憲法九条も 含めて、そういった意味でのこの憲法調査会の役割というものがあるのではないかなというふうに思 っておるんです。
 
それについては先ほど既にお答えをいただいておりますので、ここでお聞きをしたいのが、本年一回 目の憲法調査会でも我が党の仙谷委員からも指摘があるように、日本における法の支配といった  意味での脆弱性、こういったところがやはりきちっと行われるべきであろう。そのときに憲法について の判断を司法が下せないという今の現状においては、憲法裁判所というものが日本において必要  なのではないかというふうな意見を私も、そして多くの民主党の委員あるいは本憲法調査会の同僚 委員も持っておられるのかなというふうに思いますが、この点についてまずお伺いをしたいと思いま す。
■吉田公述人 
現在の裁判制度上、直接、法律ができた時点で法律そのものの憲法適合性を裁判所で、司法によ って判断するという仕組みがないために今の憲法裁判所の御指摘が出ているわけだと思いますが 、私はまず、一つ一つの権利侵害や事件を通じて地方裁判所から一般の市民が憲法の問題を議論 する、あるいは憲法に基づく権利の主張ができる、そこは今の仕組みの中で、仕組みそのものはそ れでいいのではないかというふうに思っています。
 
逆に憲法裁判所ということで、一つの、実際どういう形にするかにもよりますけれども、現実にはな  かなか、立法そのものを問う、逆に政治的にそういう判断を裁判所に求めていいのかという問題もあ るわけで、むしろ、それよりも現在の仕組みをよりきちっと機能させて、問題はその仕組みにあるの ではなくて、裁判所が、いわゆる司法消極的主義といいますか、憲法判断について非常にこれを回 避する、もちろん、九条問題がそうですし、私が先日、今の圏央道の土地収用問題で行った裁判の 手続の中でも、最高裁判所は、その収用の執行停止に対して、住民の居住の利益が、憲法上の権 利が失われている、そういう提起に対して全く判断しないという非常に消極的な態度をとったわけで す。
 
やはりそういう現実があること自体がむしろ問題で、それは運用によって今の司法が、より積極的に 行政をチェックする、あるいは国会の立法作業をチェックする、そういう姿勢をもっと発揮してもらいた いというふうに思っています。
 以上です。

武正委員 
日高公述人、先ほど、憲法を守りたい、九条は特にというようなお話もございましたが、日本の憲法 についていろいろと司法が判断を求められても、司法が判断できないというような今の現状の中で、 違憲なのか合憲なのか、法の支配ということもありますので、こういった判断をする憲法裁判所とい うのを独自につくった方がいいんじゃないかという考えは、日高公述人、どう思われますか。

■日高公述人 
憲法裁判所をつくる、設けるということに関しては、まだそこまで見解を持っているわけではないので すが、今の裁判体系と申しますか、その中で違憲であるか合憲であるかということを判断していくこ とも、今の段階ででき得るのではないかという考えを持っています。
ただ、憲法裁判所に関して、ほとんど考えたことがございませんでして、恥ずかしいことなんですけ れども、それ以上のことはこの場で述べることができません。申しわけございません。

武正委員 
ありがとうございます。
続いて吉田公述人にお伺いしたいんですが、米軍基地のことにも触れておられます。今般、政府、 特に外務省が、日米地位協定の見直しということで、米軍軍属が犯罪を犯したときの取り調べに、  弁護士の陪席というか立ち会う、こういったことを運用改善で行おう、あるいは行うということを合意さ れているわけなんですけれども、私も、そしてまた民主党もかねてより、日米地位協定は運用改善 ではなくて改定をすべきであるということを言ってきている中で、突如こういった、果たしてこれが日  本の法体系にもなじむのかどうか、なぜ米軍軍属だけこうした扱いになるのか、こういったところも非 常に疑問に思っているんですけれども、この点はどのようにお考えになっておられますか。

■吉田公述人  
地位協定の問題については、御指摘のように、刑事手続の上で日本の捜査権の 限界、これが九 五年の少女暴行事件のときに大きく問題になりまして、そういったことを含めて改定されなければな らないという点は私も同意見であります。
 
もう一つ、捜査の取り調べに対して、弁護人の立ち会いを認めるかどうかについて、これはむしろ逆 に日本の刑事手続の方を、そういった被疑者、被告人の権利を適正に守るという立場から、日本の 刑事手続の中でこそ実現されなければいけないので、これを機会に、アメリカの場合に認めるので あれば、日本でもそれをぜひ実現していただきたいというふうに思っています。

武正委員
 
日米地位協定にかかわるところでありますが、日米の合同委員会は、議事録について、第一回の  会合から非公開、双方が合意すれば公開しますよということなんですが、私は、米国あるいは米軍 は公開についてはある程度同意をしているのではないかな、これはひとえに日本政府、あるいは自 衛隊も含めて、日本側の事情ではないかなというところを感じております。
 
というのは、沖縄で在沖米軍の四軍司令官に二度ほどおととしも説明を受けましたが、沖縄におけ る在沖米軍のさまざまな行動というか訓練について、それは当然一部でありましょうが、説明責任を 果たそうといったことが見受けられたからでございます。既に、今般、イラクにおける米軍による虐待 についても上院公聴会も開かれております。あるいは九・一一のテロについても、まだ一年半足らず でありますが、既に特別委員会等でライス補佐官等もその説明をしている。
 
これが日本で果たしてどうなのか。日本でそうした事件が万が一起きて、一年半足らずで国会でそ うした説明責任を政府あるいは内閣は果たすことができるのかというと、いや、現在、捜査中ですと か進行中ですとか、日本の機密上あるいは特に米軍との機密上明らかにできません、こういった説 明が行われるのではないか。私は、説明責任ということで、米軍とのかかわり、特にこれからACS Aを改正して、米軍と自衛隊、さらに関係を強化しようという中でございますので、やはり説明責任を 果たしていくべきであろうというふうに考えております。
 
さて、ちょうどイラク開戦から一年を経て、昨年末、自衛隊のイラクへの派遣を決定した基本計画、国 会の事後承認、その折にも首相は日米同盟と国際協調の両立ですというような話をされました。し  かし、私も、そして民主党の多くの国会議員もそうだと私は思いますが、どうも首相は日米同盟に偏 り過ぎではないか。日米同盟と国際協調ということでいえば、そのバランスはもっととれていいし、あ るいは憲法論からいえば、憲法前文に国際協調は書かれておりますが、当然のことながら日米同  盟は書かれておりません。
 
こういったことから、私は、ちょうど四月二十二日の内閣記者会で、四月十六日のブッシュ大統領の 発言も踏まえて、特に六月のイラクへの主権移譲については国連の役割が大きいんだと、首相の  発言が転換したなというふうに思いますけれども、日米同盟か国際協調かという、今回のイラクにつ いての首相や政府の発言について、まず吉田公述人はどのように考えておられますか。

■吉田公述人
  
御指摘の日米同盟に偏り過ぎであるという意見については、私もそういうことはやはり非常に強く感 じているところであります。
 
特に、今度のイラクの昨年の三月二十日の攻撃に関しても、国連憲章や国際法から見て、アメリカ がやろうとしていることがどうなのかというような議論を全く抜きにして支持を表明してしまう、そうい った国際的なルールに基づいた冷静な判断を最低きちっとする、あるいはそれに対して場合によっ  ては国民の議論を踏まえた上での態度表明をする、いわばもう少し冷静な対応が、仮に今の内閣  の立場にあってもやはり求められたのではないかと思います。

それを抜きにした態度表明や、その 後の自衛隊派兵も含めて、余りにも、アメリカのやっていることに対する受け入れというのが非常に 無制限であるというふうな感を強くしているという点は、おっしゃる点で同意できる点であります。
 以上です。

武正委員
 
日米同盟か国際協調かというのをもうちょっとわかりやすく言うと、日米同盟重視か、国際協調とい う意味では、ある面、国連重視かというような言い方の方がよかったかなと思います。
 
日高公述人、同じ質問なんですけれども、先ほどの公述人のお話ではやはり国連の役割といったこ とも少し触れておられたと思うんですね。国連とアメリカとの間に日本が入って仲介役をというような ことも触れておられましたが、日米同盟重視か国連重視かと。首相は、アメリカは日本を守ってくれ るけれども、国連は守ってくれないじゃないか、こんな発言もしておられますけれども、日米同盟重  視か国連重視か。
 
私は、もともと概念が違うと。国際協調は日米同盟の上位概念なので、大体、同列で両立というの はそもそもおかしいというふうに思っておりますが、この点、日高公述人、国連の役割ということも踏 まえてお話をいただけますでしょうか。

■日高公述人
 
日米同盟を重視するのか、国際協調、国連重視をしていくのかという点につきまして、私は、日米同 盟は重要であるとは思いますけれども、それだけに偏向してしまいますと、本来、国際の平和その  ものというものが非常に危うくなると考えております。
 
よって、日米同盟は大事であるけれども、やはり日本も国連の加盟国であるということもかんがみま すと、国連重視、そして、国連のもとで日本がなし得る役割というものを明確に果たしていくという意 味で、国連重視という考えを持っております。

武正委員
 
私も、民主党のある議員さんから国連というのはこうだよという話、ああ、そうだなというふうに思った ことをちょっと紹介させていただきますと、国連というのは加盟国によって成り立っている組織ですの で、やはり加盟国の意思によって国連の機能が強化もし、役割も重くなる、あるいは加盟国がそう  思わなかったら、参加をしなかったら、あるいはやる気がなかったら、国連の機能は低下をするとい うことだと思っております。
 
そういう意味では、やはり分担金二位の日本があだや国連軽視などということを言ったり、国連は弱 体化したなどということを言うことは、天につばする行為であって、みずから国連の機能弱体の先頭 を走ってしまうということだと思っております。
さて、安保公述人、お待たせをいたしました。サイバーについて大変御見識を御開陳いただきました 。また、開戦前の想定されたこの新聞記事も大変、まさにイラク攻撃などのピンポイント爆撃などの 映像を見るにつけて、本当に情報戦が行われているんだなということを感じるわけなんです。
ちょうど今国会、外務委員会で承認をした、あるいは本会議、今参議院に送られておりますが、サイ バー条約でございますが、欧州評議会が提起をしながら、三十三署名国でありますが、批准をした のは四カ国足らず、日本がこの五カ国目になるとやっと発効する。
 
なぜサイバー条約を欧州評議会が提起しながらその批准をためらっているか、欧州評議会に入って いないアメリカももちろんためらっているか、ここにやはり問題があるのかなというふうに思っておりま す。当然、公述人が触れられた通信の秘密あるいはプライバシーの侵害等、さまざま、各国でサイ バー犯罪に対する危機感は持っていても、このサイバー条約の批准に抵抗感がある。
こういったところは当然御認識だと思いますが、このサイバー条約の批准が進まないといったことに ついてどのような感想を持っておられますか。

■安保公述人
  
先生の御質問、まことに、非常に疑問に思うことは私も多々ございます。
詳細についてはなかなか断言できないわけですが、先ほどの公述、ちょっと早口で言ってしまった  んですが、今後は、やはりハイテク戦争というもので、今はコンピューターもしくはGPSという部分で すが、最終的には対宇宙で決戦を強いるのではないかと。そのためには、自国の技術的優位に立 っている国がそのような犯罪に加担するというのは、ちょっとやはり軍事上の最高機密に触れるおそ れがあるので、ためらっているのではないかと私は思っております。
 
最近、個人情報の問題、漏えいの問題等ございますので、刑法犯として罰するのは私は必要だと  思います。
ただ、この条約を結んだからといって実効性があるかどうかというのは、かなり疑問でございます。  常に法と技術のイタチごっこになっておりますので、その辺のことを考えて、法もしくは条約を制定し たからといって、すぐにこのような犯罪とかそういうのがなくなるという認識は慎んだ方がよろしいの ではないかと私は考えております。
以上でございます。

武正委員
  
このサイバー条約は、条約の中に、国内法の整備、それから国外犯も処罰できるような法整備、そ して犯罪人の相互の引き渡しなどが盛り込まれております。やはり、サイバー条約を結んだことによ って国内法を整備していかなければなりませんので、私はかなり実効性は生じるというふうに思って いまして、特に欧米が危惧を持っているのは、そうした法整備を行うことによって懸念をされる、先ほ ど触れたような通信の秘密、プライバシー、基本的人権の制約、侵害、やはり国内で危惧の声がさ まざまあるから批准できないのではないかというふうに思っております。
 
公述人の問題意識に情報省をつくるべきだということがございます。これがアメリカのCIAのようなも のなのかどうか、それは公述人のお考えだと思いますが、確かに、情報を集約したい、情報戦に日 本あるいは日本政府として打ちかちたいというようないろいろな声、私も理解するところでありますが、ただ、その前提として、やはり先ほど触れたような懸念というものがあります。
民主党も、過去、既に通信傍受法については反対をしてきているわけでございまして、そういった意 味では、今の日本の危機管理ということが、先ほど冒頭で触れたように、縦割り行政の弊害があり まして、情報省をたとえ設けたとしても、例えば首相や官房長官に情報が上がっていないという現  実が今ございます。
 
今も、内閣官房を機能強化して、内閣情報集約センターが二十四時間フル稼働、危機管理センター も二十四時間フル稼働でありますが、例えば瀋陽の総領事館事件、これは官邸に連絡室も対策室 もつくられませんでした。先般の尖閣諸島の不法上陸事件については、もう今連絡室はなくしました ので、対策室もつくられなかった。
不思議と外交案件にあるのかもしれませんが、そうした危機管理対応が途中で握りつぶされている ような感じがあります。具体的には危機管理監が判断をしたんだ、内閣、官房長官、首相に実は上 がっていないんじゃないかというような、そんな答弁も事態対処特別委員会で井上担当大臣からも  ありました。そういった意味では、私は情報省を設けるのはいい、情報省と言うかどうかわかりませ んが、そういったものは必要なんですよ。
 
ただ、そのときに、その情報が的確に、やはり国民の代表である国会あるいは国会で選ばれた首  相、そして、特に首相の機能強化でいう内閣官房あるいは官房長官にちゃんと上がるのかどうか、 それが途中で恣意的に握りつぶされないかどうかという意味での、ここに加わってきますがシビリア ンコントロール、これが非常に大事だというふうに思っておりますが、この点はどのようにお考えにな りますか。

■安保公述人
 
私の問題意識も先生の問題意識と全く同感でございます。ただ情報省をつくればいいというのは、  ただ役所の数が一つふえるだけでございまして、私が先ほど一番最初の公述のときに、情報を分  析する、そのときに参謀本部に必ず伝達するシステムをつくると補足したのは、そのためでございま す。
 
ただ、問題は、日本の平和を守るには、日本の場合は軍事に走らない、そのためにはやはり情報  戦、他国がどのようなことを考えているのか、もしくは他国が日本に対して破壊活動等をしているの をどのように察知するのかという、非常に高レベルの情報が必要になってくると思います。私はそう いう問題意識で、情報省を設立した方がよろしいのではないかという問題意識でございます。

武正委員
 
それぞれ公述人から有益なお話をいろいろといただきましたことに心から感謝を申し上げまして、私 の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

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